映画『EMMA エマ』感想 2020年アニャ・テイラー=ジョイ グウィネス版、ロモーラ・ガライ版との比較

アニャ・テイラー=ジョイ

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アニャ・テイラー=ジョイの『EMMA エマ』に心を持っていかれた。他のエマの映像化作品もひととおり見てみたので比較感想を書く。印象的だったエマとミス・フェアファクスのピアノ曲の曲名も紹介したい。

原題:Emma.、2020年公開、2時間4分、製作国:イギリス

予告。英語音声・英語字幕。日本では劇場公開されなかった。

Apple TV+の作品ページの画面中央に日本語の予告編あり。

『EMMA エマ』の感想・考察(ある意味、歴代エマで一番いいと思う)

アニャとミア・ゴスのお人形さん感がいい

いい意味で現実感がない。過去のグウィネス・パルトロー版やロモーラ・ガライ版よりも生身の人間感が薄いのだ。これは昼間の映像の美しさ、アニャのコメディ色の強さ、ホラー女優(?)ミア・ゴスの存在、派手な帽子や衣装(上着)、コルセットから生まれる非現実感ではないかと思う。要はフィクション感が強いのだ。

ジョニー・フリン版ナイトリーにおっさん感がない!

原作の冒頭ではナイトリーは37~8歳で、エマは21歳の設定だ。ジョニー・フリンは撮影当時36歳だった。私はこのナイトリーが一番すてきだと思う。アニャとジョニーは13歳の年齢差があるが、とてもお似合いに感じる。ちなみに後述するグウィネス・パルトロー版のナイトリー、ジェレミー・ノーサムは当時34歳くらいで11歳差、ロモーラ・ガライ版のナイトリー、ジョニー・リー・ミラーは当時36歳くらいで10歳差だったので、ジョニー・フリンのナイトリーが若いわけではない。

エマがハリエットを適当に扱う展開にはモヤッとした

エマとナイトリーは、思いを確認し合ってハリエットが障害になると速攻ロバートとくっつける。ハリエットとロバートは相思相愛だったので、収まるところに収まったといえば聞こえはいいが、ここはあまりにも勝手で不誠実だと思った。もう少しうまいまとめ方をしてほしかった。たとえば、エマがハリエットにナイトリーと両想いであることを告白して謝罪する。するとハリエットが「本当はまだロバートのことが忘れられなくて」と言い、エマがロバートに話を持っていく。こういうワンクッションがあると受け止めやすかったと思う。

あくまでもかわいげのあるアニャ版エマ

冷静に考えるとエマは相当イヤな人間なのに、アニャのおかげなのかそこまで憎めない。ミス・ベイツを侮辱しておきながら自分は悪くないかのようにふるまうのはお子様だなと思ったけど、全体的にはおとぎ話のようだった。日中のシーンには、ピンクやベージュ、黄緑といったパステルカラーが画面にあふれ、なんとも明るくかわいい世界観だ。原作や他の映像化作品と比べて、エマにかわいらしさがある。

ナイトリーはいつからエマが好きだった?

エマがナイトリーを好きだと思い始める様子は明確に描写されていたけど、ナイトリーについてはよくわからなかった。見直してみたら、最初のほうでナイトリーは、エマがピアノを弾いてるのを見てやさしく微笑んでいる。恋する男の目だ。ああ、元から好きだったのか。原作では、ナイトリーはチャーチルが戻って来ると聞いて、ジェラシーを抱いたことで自分の気持ちに気付いたと書いてある。

ナイトリーが服を脱ぐシーンは必要?

正直面食らったし、不要なシーンだと思った。でも監督はその意図をこう述べている。「ナイトリーはエマに苦言を呈する役回りなので、裸にすることで彼ももろさを持つ人間だということを示したのです」えー……それはわからなかったわ……やっぱりいらなくないかな?

エマが暖炉の前でスカートを持ち上げてお尻を暖めているシーンも必要なの?

このシーンにも意味があった。監督は1796年に書かれたユーモラスなイラスト(シーンそのまんまの絵。画像の読み込みが遅いかも)にインスパイアされてこのシーンを入れたとのこと。それから、ナイトリーの服脱ぎシーンと同様に、当時は下着をはいていなかったことを説明する描写でもあるらしい。

ハリエット役のミア・ゴスの眉毛の薄さ

ミア・ゴスは『マローボーン家の掟』でもほんの数シーンながらアニャと共演。やはり気になるのが彼女の眉毛。染めたりしておらず、元々薄い(明るい?)らしい。今回の明るい役柄も意外な感じでよかったけど、ミアはやはりホラーの人。マローボーンのほうが好きかな。

小説『エマ』の他の映像化作品

エマ(1996年)

グウィネス・パルトロー版エマ。うーん、エマの魅力をあまり感じない。好みの問題かもしれないけど、可愛げがあまりなくて、淡々としたお話が本当に淡々と進行してしまっている。ミス・ベイツを侮辱するくだりも、エマが単なるきつい人に見えた。

グウィネスのエマは自然な雰囲気だけど、アニャのエマはやや子どもっぽく、少し芝居がかっている。アニャ版のほうがコメディとして見やすい。

気になるのがコスチュームだ。グウィネスたちの衣装はもちろん十分きれいだが、ネグリジェのように見えるものもある。アニャ版のほうがコスチュームが豪華で目の保養になる。グウィネスたちは帽子をあまりかぶっていないけど、アニャ版の帽子はあまりにもかわいかった。映像もアニャ版のほうが色合いがきれいですてきだ。そしてなんといっても、ジョニー・フリンのナイトリーのほうがはるかにかっこいいし、かわいらしい。こちらはジェレミー・ノーサム演じるナイトリーがあまり魅力的に感じられなかったため、恋愛部分に没入できなかった。

とはいえ、エマとナイトリーが結婚することになり、ハリエットが落ち込みながらもロバートとうまくいくあたりは自然で、アニャ版の自己中な展開よりもずっとよかった。

おもしろかったのがハリエットだ。トニ・コレットが野暮ったく無邪気で、声がめちゃかわいい。トニといえば、2018年のホラー映画『ヘレディタリー/継承』の強烈なシーンが今でもトラウマになっているが、若い時はまるで別人で驚いた。そうか、これは『シックス・センス』よりも前なんだな。ちなみにトニは、2019年のNetflixドラマ『アンビリーバブル たった1つの真実』の刑事役がかっこよかった。

クルーレス(1995年) 

現代のビバリーヒルズを舞台に(といっても90年代)、小説を大胆にアレンジした『クルーレス』。話の大筋は変わらないにもかかわらず、まったく別物に感じられる。今の我々にとって、19世紀のイギリスという舞台が肝であったことを実感する。

といっても、今見るとキャストがいい。当時の大人気アイドル、アリシア・シルヴァーストーンがファッションやパーティ、他人をおしゃれにさせることに夢中な女子高生シェールを演じている。相手役の義兄ジョシュ役はなんと『アントマン』のポール・ラッド。

シェールは深みのない空っぽの女の子に見えるけど、カラッとしていて嫌いにはなれないし、アリシアの美貌とオーラがすごくて許せてしまう。バカなことばかりしているシェールだけど、ジョシュへの気持ちを認識し、今までの自分の行動がバカだったと気付いてからは、ちゃんと反省する。話が早い。人は変われるというメッセージがいい。

アリシアのファッションは今見てもめちゃかわいい。ただし『アントマン』を見た人が、ジョシュの真剣な瞳に笑ってしまうのは仕方ないことなのだ……98分の軽い青春コメディなので気軽な気持ちで見るのにおすすめ。

「クルーレス」は文脈上「ダサい」と訳されているシーンがあるためか、映画タイトル自体が「ダサい」という意味のように書かれているのを見る。でも元々は「何もわかっていない」という意味の言葉なので、タイトルは「無知な子」や「バカな子」という意味で、シェールについて表現した言葉だと解釈したほうがしっくりくるかな。

アリシアが美しい。予告は英語音声・英語字幕のみ。

『エマ』(2009年、BBCドラマ)

ロモーラ・ガライ版のエマ。エマがうっとうしい!表情がすっごいイヤ。きれいなお顔のロモーラ・ガライがエマの傲慢さや自己中さをしっかりと表現しているだけなのはわかるんだけど、最後の最後にナイトリーへの気持ちに気付くまでは、本当に全く好きになれない。全4話(約3時間半)と長いので、原作に忠実に描くとこうなってしまうのか……裏返すと、ストーリーや人物が丁寧に描かれており、エマの心の機微、周囲との人間関係や背景事情もわかりやすい。ナイトリーが本当にちょくちょくエマの家に来るので、2人の関係性もじっくりと描かれている。そこはいい感じ。

グウィネス版と同様、衣装の色合いやデザインが一部を除いてわりと地味(もちろん十分すてき)。ブラウスとワンピースといった、素朴な服を着ていることが多かった。たぶん、アニャ版(特に上着と帽子)が特に派手になんだろう。下品な人物として描かれたエルトン夫人だけが、アニャ版のような華やかな色合いの衣装でパラソルを持ってたりする……

『ミニチュア作家』で陰鬱な女性を演じたロモーラ・ガライ、実は顔の造りが美しい。あっちは暗い役だったので気付けなかった。ハリエットは出番が少なく感じられた。ルイーズ・ディランはきれいだったけど、ずいぶん普通のハリエットだった。トニとミア・ゴスの存在感よ。

結論:アニャ版以外のエマはちょっと好きになれない

エマはかなりイヤな性格の持ち主なので、好きになれなくても仕方ないと思う。アニャ版は円盤を買うほど好き(英語字幕のみ。Amazonでは日本語字幕のデジタル版を購入できる)。もしも原作を読んでいない方がいたら、ぜひ読んでいただきたい。やはり不朽の名作であることは間違いないので。10年、20年後にはまたリメイクされるかもしれない。

おまけ:『EMMA エマ』のピアノ

ミス・フェアファクスのピアノ演奏はさすがだし、アニャのピアノと歌声はかわいらしかった。ピアノ曲のみ、以下に曲名をまとめた。その他の曲は、下のサントラのプレイリストにある。

エマ:モーツァルト「メヌエットとトリオK.1」

ナイトリーが最初に訪ねてくるシーンでエマが弾いている曲。初級の簡単な曲なので私も弾いてみた(楽譜は無料のIMSLPにある)。小さな曲だけど耳に残り、とてもかわいらしい。

エマ:「夏の名残のばら(The Last Rose of Summer)」

ミス・フェアファクスとのピアノ対決で弾き語りした曲。この曲と上の曲はプロダクションノートに「Performed by Anya(アニャ演奏)」という記載があるので、アニャが本当に弾いたようだ。

ミス・フェアファクス:モーツァルト「ピアノソナタ第12番 ヘ長調 K. 332 第3楽章」

ミス・フェアファクスを演じたアンバー・アンダーソン(美人!)が対決シーンで弾いた曲。アンバーは音楽学校に行ってピアニストを目指していただけあり、素晴らしい腕前だ。ただし、この時代には今のピアノとはかなり異なるフォルテピアノが使われていたので、先生を雇って練習したそう。下のSpotifyでは15曲目。

ミス・フェアファクス:ベートーヴェン「ピアノソナタ 第23番 へ短調 作品57「熱情」 第2楽章」

エマが無礼を謝りに行ったときにミス・フェアファクスが弾いていた曲。下のSpotifyでは28曲目。

サントラにはアニャの弾いた曲は収録されていない。収録は辞退したのかな?

参考サイト:LA Times Trhrillist IMDB Fabric Into the gloss

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