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原題:The Menu、2022年公開、1時間47分、製作国:アメリカ
『ザ・メニュー』のおすすめポイント
- シュールなとんでも映画!『ミッドサマー』が好きなら気に入るかも。
- ブラックユーモア全開のR15+サスペンスコメディ。
- 『教皇選挙』のレイフ・ファインズが不思議ちゃんのシェフを演じる。
『ザ・メニュー』のあらすじ
孤島にある高級レストラン「ホーソン」に、1人20万円のディナーを味わうため12人の客が集う。料理評論家に金持ちの常連客、成金、落ち目の俳優。コースではシュールながらもユニークな料理が提供されていくが、これらは今夜の地獄のメニューの一部にすぎなかった……
『ザ・メニュー』の感想・考察
- セレブや富、虚栄心への強烈な風刺作品。2品目の「パンのないパン皿」に文句を言いながらもスプレッドだけ舐める客たち。1人20万円でこれを出されたら自分ならどうするか?私は庶民なのでパンを出してもらえるはずだが、スプレッドしかなければ手を付けないと思う、たぶんだけど……
- マーゴの強さが掘り下げられていない。スプレッドに手を付けず、シェフに否定的なマーゴの姿勢は人間としては正しい。でも、彼女は実はエスコートガールでタイラーにお金をもらって同伴しているだけ。ならば普通は雇い主のタイラーに合わせないか?マーゴ役に強さや正しさを示す行為をさせるのであれば、その背景情報をほんの少しくらいは描くこともできたはず。キャラクターとしての説得力が少し足りていないのは、アニャ・テイラー=ジョイのファンとして残念に思う。
- 6品目の「男の過ち」に苦笑。かつて迫った女性副料理長にキッチンバサミで刺されるシェフ。自らの不適切な行為の罰を受けたのはちょっとえらいけど、シェフが料理以外はすごい人でもなんでもない普通の男であることを表している(実にカルトの教祖らしい)。刺されたのが太ももなのは「タコスの夜」で暴力的な父親を母親が刺したときの再現なのね。
- 罪のない人まで巻き添えに。メニューに口出ししてきたオーナー、不正経理を行っているオーナーの部下、多数のレストランを批評記事で潰してきた料理評論家、ここらへんはまだわかる。5年間で11回来店しているのに今までに出されたメニューを一品も正確に言えない常連客、これも有名店に行けばいいという虚栄心でシェフの心を傷付けたのはわかる。でも、シェフがたまたま見た駄作映画の主演俳優はどうだろう。その連れの女性にいたっては、大学を奨学金で行っていないというだけで逃げられなかった。罪と罰が全く釣り合わないが、この点はサイコなシェフの完璧なメニューのため、あくまでもコメディだから、と片付けるしかないのか。
- マーゴはなぜ逃げることができたのか?この点が非常に難しい。マーゴは元々招かれざる客であり、シェフは彼女をどう扱うべきなのか迷っていた。しかし、迷っていたのは労働者側として死なすべきなのか、搾取する側として死なすべきかという点であり、彼女を生かそうとはしていなかったはずだ。ところが、マーゴによってシェフは料理することの喜びを取り戻し、彼女に好意を抱いて生かす決断をした。私自身は素直にこのように感じた……しかし、海外のレビューではさまざまな考察もある。たとえば「マーゴはメニューの一部なので、マーゴがバーガーを「持ち帰る」と言ったときに、シェフはマーゴ自身が「持ち帰り」になることを許した」という解釈も好きだ。より深い考察だと、「マーゴが行うエスコートガールの仕事は男のファンタジーをかなえることであり、マーゴは単にシェフを喜ばせたというだけではなく、エスコートガールとしての技でシェフの理想(ファンタジー)を実現した。それにシェフが感心したから逃がした」という解釈もある。つまり同じ接客業としてマーゴの仕事ぶりを評価したというわけだ。おもしろいね。ただし、深い解釈だから製作陣の意図と合っているとは限らない。ネットに落ちている脚本からはそのようには読み取れない。うーん、素直に感じた解釈が合っているのかもしれない。
- 頭にチラつく『ミッドサマー』。本作と2019年の『ミッドサマー』には、カルト集団、自殺、火事といった共通点がある。この『ザ・メニュー』を気に入って、『ミッドサマー』をまだ見ていない人がいれば、ぜひ見比べをおすすめしたい。あちらは他者に依存する主人公がカルト村に入り込んで立ち直っていく姿を描いた失恋ホラーコメディだが、本作には風刺以外の心理的な深みがない。しかしだからこそツッコミどころ満載の不思議系作品として心惹かれるものがあり、私は『ミッドサマー』と同じくらい本作を気に入っている。
- チーズバーガーを食べたくなったので作ってみた……
キャストトリビア
- レイフ・ファインズの声でアテ書き。『教皇選挙』で中間管理職的な枢機卿を演じて好感度を上げたレイフ・ファインズだが、本作では、威厳、不気味さ、不可解さ、人間としての弱さを併せもつシェフを演じている。脚本家たちは最初からレイフ・ファインズの声を想定して筆を進めたらしい。
- マーゴ役はエマ・ストーンが演じる予定だったが、スケジュール上の理由で降板したためアニャ・テイラー=ジョイが演じることになったそう。エマでもいい作品になったかもしれないけど、ちょっと強そうすぎるかな?
- 虚栄心の塊として描かれたタイラー役はニコラス・ホルト。『X-MEN』のビースト役では好印象だったニコラスだが、本作ではキラキラの目のクズを好演した(笑)
- 落ち目の俳優役の人はどこかで見たことあると思ったら、『ジョン・ウィック』にも出てるし、ノーラン監督の『オデュッセイア』(2026年7月公開)にも出るらしい。ジョン・レグイザモというお名前。
レイフ・ファインズの表情がとにかくいい。今回が2回目の鑑賞だったが、数年たって忘れたころにまた見たい。
*無断転載禁止。
参考サイト:Deadline Film